輸入感染症とは?その他の感染症との違いや種類・対策を解説

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自由に海外を飛び回り、世界中の人々が行き来するようになった昨今。日本国内に存在しなかった感染症が持ち込まれ、蔓延するリスクは以前より高くなっています。

グローバル化が進む現代では、今後もさまざまな感染症が持ち込まれる可能性は低くないでしょう。そこで今回は、海外から持ち込まれる「輸入感染症」について詳しく解説します。

目次

  • 輸入感染症とは?
  • 日本における輸入感染症の動向は?
  • 輸入感染症についてこれから気を付けるべきこと

輸入感染症とは?

海外から持ち込まれる「輸入感染症」。まずは、詳しい定義やどのような感染症が該当するのかを詳しく見てみましょう。

輸入感染症の定義

輸入感染症とは、本来、日本国内に存在しない病原体が海外から持ち込まれることで発生する感染症のことです。かつて日本に存在したものの、既に撲滅された病原体による感染症も含みます。

感染症が「輸入」される主なルートは、旅行や仕事などで海外を行き来することによります。海外で何らかの感染症にかかった状態で帰国するケース、感染症にかかった外国人が日本を訪れるケースなど、輸入ルートはさまざまです。一方で、海外から輸入された食品や動植物に付着していた病原体によって生じる感染症も、輸入感染症の一種とされています。
このように、輸入感染症は多岐に渡り、さまざまな種類のものがあるのです。

主な輸入感染症

現在、日本国内で問題となりうる輸入感染症には、次のようなものが挙げられます。
それぞれの特徴を詳しく見てみましょう。

コレラ

コレラ菌に感染することで、腹痛や嘔吐を起こす感染症です。
インドやバングラデシュなどで流行しており、主にコレラ菌に汚染された水や食べ物を介して感染すると考えられています。日本国内では、ここ数年発症者は非常に少なくなっています。しかし、WHOの推定によれば、世界では年間20~30万人がコレラにかかっているとのこと。医療が発達していない発展途上国では、多くの方がコレラで命を落としているのが現状です。

コレラは軽症な場合には軽い下痢や軟便が現れるのみで、自然に回復していくことがほとんどです。しかし、重症化すると米のとぎ汁のような下痢が大量に排泄され、高度な脱水状態に陥ることも…。流行国へ渡航するときは、生水や生もの、生焼けのものを口にしないようにしましょう。

細菌性赤痢

赤痢菌に感染することで、発熱、悪寒(おかん)、倦怠感(けんたいかん)、腹痛、下痢、血便などを引き起こす感染症です。

かつては日本でも流行しており、戦後しばらくの間は年間10万人が細菌性赤痢にかかり、2万人以上が命を落としていたとのこと。赤痢菌は感染者の便に潜んでおり、便に汚染された手指や水、食べ物などを介して感染します。このため、衛生環境が整っていくにつれ、国内での発症者は激減しました。まれに、学校やホテルなどの施設で集団発生することもありますが、半数以上はアジア地域への渡航者から国内に持ち込まれると考えられています。

コレラと同様に流行国に渡航する際には、生水や生もの、生焼けのものは口にしないよう注意し、こまめな手洗いを徹底することが大切です。

腸チフス・パラチフス

チフス菌やパラチフス菌に感染することで、発熱、頭痛、食欲低下、ダルさなどの症状を引き起こす感染症です。特徴的な経過をたどることが知られており、発症早期の段階では40℃近い高熱、徐脈、発疹(バラ疹)、脾臓の腫れなどの症状が見られます。そして、熱が下がることがないまま下痢や便秘などを引き起こす「第2病期」に移行。徐々に熱が下がっていく「第3病期」に続いて回復していきますが、重症の場合には意識障害や腸に穴が開くなど重篤な症状を引き起こすことも少なくありません。

チフス菌やパラチフス菌は、感染者の便に潜んでおり、便に汚染された水や食べ物を介して感染します。日本では年間20~30名の方が発症し、その9割は海外からの輸入。現在でも南アジア、東南アジア、中南米、アフリカなどで多くの感染者が発生しており、その範囲は世界中に及んでいます。

デング熱

デングウイルスに感染することで、発熱、頭痛、関節痛、食欲低下、腹痛、便秘、全身の発疹を引き起こす感染症です。通常は一週間ほどで自然に改善しますが、重症化すると出血しやすくなる「デング出血熱」に移行する場合も…。 感染源はデングウイルスを持つネッタイシマカなどの蚊とされており、刺されると感染する可能性があります。東南アジア、南アジア、中南米、カリブ海諸国で流行していますが、世界では年間1億人もの方がデング熱にかかっているとのことです。日本でも2010年から国内で流行し、年間の感染者は200人に上るとされています。
流行国へ渡航するときだけでなく、国内でも夏は蚊よけ対策を行うようにしましょう。

マラリア

マラリア原虫に感染することで、発熱、倦怠感、頭痛、関節痛、下痢、腹痛、吐き気、咳、呼吸困難感など全身に様々な症状を引き起こす感染症です。
マラリア原虫は、ハマダラカなどの蚊に刺されることで体内に侵入します。日本では年間60人ほどが発症しますが、ほとんどは東南アジア、オセアニア、アフリカ、中南米などへの渡航歴がある方です。
これら流行国へ渡航するときは、蚊よけ対策を徹底しましょう。また、マラリアには予防薬があるため、流行地へ赴く予定があるときは、出発前に予防薬を内服しておくのもおすすめです。

チクングニア熱

チクングニアウイルスを持つネッタイシマカやヒトスジシマカなどの蚊に刺されることで発症する感染症です。発症すると、発熱、関節痛、全身の発疹が生じ、とくに関節痛は数か月に渡って続くケースもあるとされています。

チクングニア熱は比較的新しい感染症の一つで、2005年前後にインド洋のコモロ諸島で流行が発生しました。現在では、カンボジア、ベトナム、ラオス、ミャンマー、マレーシア、フィリピン、インドネシアなどで流行が見られ、日本にも2006年に持ち込まれています。

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なお、現在日本国内では発生していませんが、世界中で問題となっている輸入感染症には次のようなものがあります。

エボラ出血熱

コウモリやサルなど野生の動物が持つエボラウイルスに感染することによって発症する感染症です。発症すると高熱、倦怠感、頭痛、下痢・嘔吐などの消化器症状が引き起こされ、重症化すると全身の出血が起こりやすい状態となります。致死率も高く、非常に恐ろしい感染症ですが、今のところ日本国内での発生事例はありません。
アフリカ大陸を中心に発生しますが、2014年には大規模な流行が生じ、アメリカなどでも感染者が発見されているのが現状です。

狂犬病

狂犬病ウイルスを持つイヌやネコなどに噛まれたり、引っ搔かれたりすることによって発症する感染症です。日本国内では、海外渡航中に感染し、帰国後に感染が発覚するケースもありますが、野生の動物から狂犬病ウイルスが感染することはほとんどありません。
発症すると、発熱や頭痛、倦怠感、嘔吐など風邪のような症状が生じ、徐々に感覚障害や筋肉のけいれんが引き起こされます。そして最終的には、呼吸をすることができなくなって死に至りますが、致死率は何と100%。世界では年間3万5000~5万人の方が狂犬病で命を落としています。

日本における輸入感染症の動向は?

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現在、海外に渡航する日本人は年間1600万人。日本を訪れる外国人は年間2000万人以上。海外との交流が気軽にできるようになった反面、これまで以上に「輸入感染症」の問題は付きまといます。

では、近年の日本国内での輸入感染症の発生状況を詳しく見てみましょう。

これらの発生数は年々減少しているものの、デング熱の増加やチクングニア熱など新たな感染症の発生が見られます。このように、輸入感染症の発生動向はその時々で大きく異なるのが特徴です。

また、2014年にはこれまで輸入感染症とされていたデング熱が国内発生。病気に対する認知度が高まり、医師の間にも検査方法が周知されたことで、その後も患者数は増加しています。もはや「輸入」とは言えないのが現状でしょう。

輸入感染症は、デング熱のように国内に定着していく可能性があるものも少なくありません。定着化を防ぐには、感染を拡げないための対策と感染症を持ち込まない対策を行っていくことが大切です。

輸入感染症についてこれから気を付けるべきこと

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ますますグローバル化が進み、多くの外国人が行き来するようになっている日本。それは、輸入感染症が持ち込まれるリスクが高まるということでもあります。
輸入感染症の持ち込みと定着化を防ぐには、次のような対策が必要です。

行政による対策

  • 水際対策
    発熱などの症状があり、輸入感染症を発症しているリスクが高いと考えられる渡航者の入国を許可しないといった水際対策が必要です。
    このような対策は、国内に感染者一人分の病原体を国内に持ち込ませない!という意味では、確かに有用です。しかし、見逃しも珍しくないため、確実な対策方法とは言えません。まさに「水際」の対策です。
  • サーベイランス機能の強化
    サーベイランスとは、「注意深く監視する」ということ。感染症法で定められた感染症は、発生数や発生地域などが調査され、広く周知される「感染症サーベイランス」という監視を受ける制度が整っています。感染症サーベイランスによって、リアルタイムな発生状況を把握することができ、蔓延と予防につながると考えられています。
    大規模なイベントの前後に、この感染症サーベイランスの機能を強化し、得られた情報を医療機関や国民へ迅速に情報提供すれば、未知の輸入感染症に対する効果的な啓発になると考えられます。

個人による対策

輸入感染症も基本的には、通常の感染対策を正しく行えばうつるリスクを大幅に軽減することが可能です。輸入感染症のリスクが高まるこれからの時期は、手洗いや手指消毒などの一般的な感染対策をしっかり行っていくようにしましょう。人ごみに出るときは、マスクを着用するのも感染対策の一つです。

また、感染症を予防するには、免疫力を一定水準に維持することが大切だと言われています。感染症を少しでも予防できるよう、日ごろから、

  • 十分な休息と睡眠時間の確保
  • バランスのよい食生活
  • ストレスの軽減

を意識した習慣を身に付けるようにするとよいでしょう。

食生活では腸内環境を整えることが免疫力の維持に有効であると考えられていますので、食物繊維やヨーグルトに代表されるような乳酸菌を含んだ発酵食品を摂ることも大切です。

また、輸入感染症は蚊を介して感染するものも多いため、虫よけスプレーや長そでのラッシュガードなどを利用して、蚊に刺されないような対策を行うようにしましょう。

まとめ

グローバル化がますます進む現代。輸入感染症のリスクは以前よりはるかに高まっており、そのリスクは今後も続いていくでしょう。
輸入感染症を予防するには、流行国へ渡航する際の衛生管理が重要です。また、外国人から持ち込まれる感染症に対しては、日ごろから通常の感染対策を遵守することで感染するリスクを減らすことができます。

冷静に正しい対処をしながら、グローバル化の波に乗っていきましょう。

【監修】成田亜希子

所属学会:日本内科学会、日本感染症学会、日本結核病学会、日本公衆衛生学会
略歴:弘前大学医学部卒業。内科医として勤務。また、国立医療科学院でも研修を積み生活習慣病や感染症予防などの公衆衛生分野の知見を習得している。